【2023年8月】今後のEC販売の行方は?底堅いアメリカの個人消費
- Akihiro MImura
- Aug 23, 2023
- 6 min read
Updated: Jul 20, 2024
インフレが深刻化し、中央銀行が異例の大幅利上げを行う中、アメリカでは個人の消費が急速に落ち込むのではないかとの懸念が強まっていました。しかし、実際は依然としてアメリカの小売は伸びを続けており、懸念されていたような落ち込みは見られていません。これにはどのような背景があるのか、また、こうした底堅さは今後も続くのか、みていきましょう。
1.アメリカのインフレはようやく沈静化へ
これまで、アメリカの中央銀行(FRB)に大幅な利上げを促し、人々の暮らしを圧迫、経済の足かせとなってきた全ての元凶は、急激な物価の上昇でした。図表1は、アメリカの総合インフレ率と、エネルギーと食料品を除いたコアインフレ率の推移を示したグラフです。アメリカのインフレ率は、2022年6月には前年比+9.1%まで上昇。これは、たった1年でモノやサービスの価格が1割近く上昇したことを示します。
インフレが歯止めなく進行してしまえば、人々は物価が上がる前に何とかモノを入手しようとし、消費を急ぎます。結果的に、更にモノへの需要が過熱し、一段の物価上昇を招くこととなります。「物価の番人」であるFRBはこうした負の連鎖を防ぐため、利上げにより景気を沈静化し、物価を抑制しようとします。ただし、金利上昇は経済活動にとってネガティブです。利上げが長引けば、行き過ぎた利上げが今度は景気をオーバーキルしてしまう可能性が高まります。
しかし、2021年から続いてきた急激なインフレは、ようやく沈静化しつつあります。ロシアのウクライナ侵攻を背景としたエネルギー価格の急騰が一服したことなどから、総合インフレはほぼ平常時に近い水準まで低下してきました。また、高止まりが懸念されていたコアインフレ率に関しても、鈍化が鮮明になってきています。このことは、アメリカ経済にとっても、アメリカの消費者にとっても朗報です。
図表1:アメリカの消費者物価指数(前年比)

出典:BLS (*1)
2.底堅さを保つアメリカの個人消費
インフレが沈静化の兆しを見せる中、アメリカの小売に関しても底堅さが見られています。図表2はアメリカの小売売上高の、前月比の推移です。数値が0を上回っていれば前月比で増加、つまり売上高が増加基調を辿っており、0を下回っていれば減速していることを示しています。2022年末から2023年初旬にかけては、0を下回る月が確認されていましたが、4月から7月は4ヶ月連続でプラスを確保。厳しいインフレにも負けず、アメリカの小売は拡大を続けていることがわかります。
図表2:アメリカの小売売上高(前月比)

出典:米国勢調査局(*2)
アメリカの小売が予想外の底堅さを見せている要因には、商品価格の低下が挙げられます。以下のWall Street Journalの記事(https://www.wsj.com/articles/retailers-problems-get-real-78c6ade3?st=hl2zx27lx0uxj8k&reflink=desktopwebshare_permalink)にもあるように、商品の価格の上昇が一服したことで、消費意欲の減退にも歯止めがかかり始めているようです。価格の低下は小売業者にとってネガティブにも思えますが、①仕入れ価格も低下するためマージンは変わらないこと、②価格低下により販売数量が増えること、を踏まえると、長期的にはポジティブでしょう。
アメリカの消費マインドの底堅さを示す指標は他にもあります。図表3は、米コンファレンスボードが調査した消費者マインドを指数化したグラフです。この指数は、新型コロナウイルスの拡大で世界的に経済活動が停滞したことを受け、一時急落していましたが(①)、その後は経済活動の再開に伴い一時的に回復したものの(②)、2021年後半以降は今度はインフレを受けて再度悪化していました(③)。しかし、最近ではインフレが沈静化してきたこともあり、再度回復しつつあります(④)。特に直近では予想を上回る回復を見せており、アメリカの個人の旺盛な消費マインドが顕著にあらわれています。
図表3:米コンファレンスボード消費者信頼感指数

出典:米コンファレンスボード(*3)
3.景気減速の可能性は残るが一時的か
底堅さが目立つアメリカ経済ですが、一時的には減速する可能性もあります。現在の政策金利は既にリーマンショック直前の水準を上回っており、相当程度アメリカ経済にブレーキを掛ける結果となっています。
こうした状況が如実に現れているのは、米銀の融資に対する態度です。図表4は、FRBが四半期ごとに実施している銀行貸出態度指数です。これは、FRBが銀行の融資担当者に行うアンケート調査で、融資を実行する際の態度を「厳格化した」と答えた割合から「緩和した」と答えた割合を引いた数値です。つまり、数値が大きくなればなるほど企業が融資を受ける際の条件が厳しくなっていることを意味しています。
図表4を見ると、コロナショック後に急速に厳格化した貸出態度は、経済活動の再開に伴い一旦緩和したものの、その後は急速に利上げが行われる中、再度厳格化していることがわかります。銀行は財務の健全性の低い企業から貸出を控えるようになりますので、そういった企業の倒産リスクは今後高まることとなります。企業の倒産が増えれば、失業者も増え、景気は減速、消費も失速するリスクはあります。
もっとも、そのような状況になれば、FRBは利下げで経済を下支えするでしょう。金融緩和が行われれば、銀行は再度積極的に貸出を行うようになるため、上記の懸念は払拭されます。アメリカ経済が失速する可能性はありますが、一時的なものにとどまると考えられます。
図表4:米銀行貸出態度指数

出典:FRB(*4)
4.雇用の強さと過剰貯蓄が景気減速をマイルドに
また、最近ではアメリカ経済は「減速」はするものの、「後退」には至らない(いわゆる「ノーランディング」)のではないか、との見方も強まっています。
その根拠の1つとなっているのが、アメリカの堅調な雇用です。図表5は、2010年以降のアメリカの失業率のグラフです。失業率は、コロナショックにより一旦急上昇したものの、2021年から2022年にかけて急低下し、直近7月も3.5%と2カ月連続で低下しました。
これまで、インフレの抑制と失業率はトレードオフ、つまり、インフレを抑制するためには景気を悪化させ、失業率を上げる必要があるとの見方が優勢でした。しかし、最近ではインフレの抑制と低い失業率の両立という「ナローパス」に成功するのではないかとの期待が高まっているのです。
図表5:アメリカの失業率

出典:BLS(*5)
こうした見方を支えるもう1つの要因が、アメリカの個人に積み上がった過剰貯蓄です。2020年初頭のコロナショックに対応すべく、FRBは超大規模な金融緩和を行い、企業・個人問わず、世の中には大量のマネーが行き渡りました。図表6は、アメリカの個人の貯蓄額の推移を示したものです。2020年には、コロナ前のトレンドを大きく上回る貯蓄が積み上がっていることがわかります。アメリカのインフレが深刻であることは確かですが、消費者はそれまで過剰に積み上げた貯蓄を取り崩すことができるため、消費への意欲はそれほど減退していないのが事実です。この過剰貯蓄はいずれなくなりますが、その頃にはインフレが落ち着いていることが予想されるため、やはり個人の消費が大きく減速する可能性は低いでしょう。
図表6:アメリカ個人の貯蓄額

出典:BEA(*5)
まとめ
l アメリカのインフレ率はようやく沈静化へ。消費者にとって朗報
l インフレが沈静化しつつある中、アメリカの小売は堅調。消費者マインドも強い
l 金融機関の貸出態度は厳格化しており、一時的には景気が減速する可能性も
l ただ、雇用の底堅さと積み上がった個人貯蓄により減速もマイルドなものになる可能性が高い
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*1 「Consumer Price Index」
*2 「Monthly Retail Trade」
*3 「US CONSUMER CONFIDENCE」
*4 「Senior Loan Officer Opinion Survey on Bank Lending Practices」
*5 「Civilian unemployment rate」
*6「Personal Saving Rate」
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